4歳児はカオス!?

おしらせ/幼稚園の生活

「お母さん、新しい水着買って!」

そう、年中の娘のMが私の顔を見るなり叫んだのは、みどりクラブのお迎えの時のことです。

夏休み中のみどりクラブでは毎日のようにプールの時間があり、娘も意気揚々とプールの支度をして登園して行きました。
その日はお気に入りの水色の水着だったはず。
なのに、なぜ?

「お友だちの○○ちゃんから『水色は男の子の色だから、Mちゃんの水着は可愛くない』って言われた。○○ちゃんみたいなピンクの水着、買って!」
(○○ちゃんは娘と仲良しのお友達です)
そう、涙をぼろぼろと流しながら訴える娘。

こんな時、私は発言の良し悪しよりも「その価値観はどこから来たのか」に強く興味を引かれます。だって、女の子たちが大好きな「プリキュア」にも青がメインカラーの女の子キャラはいるし、「アナと雪の女王」のエルサも水色、パウパトロールの女の子キャラ『エベレスト』のテーマカラーも青です。今時「男の子は青、女の子はピンク」というような保育者もいないでしょう。
にもかかわらず、いまだに多くの子どもたちが「青は男の色」「ピンクは女の色」という固定観念を持つのは一体なぜだろう?

(ちなみに、絵本『かっこいいピンクを探して(なかむらるみ著)』によると、日本でピンクがはじめて “女の子の色” として扱われ始めたのは1950年代、アメリカでピンクが大流行したのが日本にも伝わり、当時増え始めたデパートでの販促に結びついたのが最初と言われています。面白いですね)

私はその理由で水着を買い替えたくなかったので、娘に言いました。

「その水着は少なくともMにとても似合っているし、鏡の前に立って自分の姿を見ればかわいいかどうかは一目瞭然じゃない」

夫も、
「Mちゃんがその水着を少しでもかわいいと思っているならそれは”かわいい” で良いんだよ。人と意見が違うのは当たり前のことだよ」と。

でも娘は

「お友だちがかわいくないって言うから水色は嫌だ! ピンクがいい!」の一点張り。

結局その日の話し合いは並行戦で、水色の水着を持たせるたびに娘がむくれる日々が続きました。

ある日のこと。

お祭りに行くと、○○ちゃんご一家とすれ違いました。

○○ちゃんは娘に遊ぼう、と気さくに話しかけるのですが、娘は海原雄山のような顔で仁王立ちしたままです。私は気にせずお母さまと立ち話をしていました。
やがて○○ちゃんご一家が帰ろうとした時、それまで黙っていた娘は突然、

「Mちゃん、○○ちゃんと話してくる!」と猛ダッシュ。
親の追いつけない速さで人混みをかき分け、○○ちゃんご一家に追いつくと、

「○○ちゃん!」

神社の鳥居の下で大声で叫びました。

「Mね、本当は、○○ちゃんに『水着可愛くない』って言われたの、嫌だった!」

一同、びっくりです。相手のお母様は慌てて「○○ちゃん、ごめんねできる?」と促しますが、その子も強い。

「嫌だ!謝りたくない!」

(私はこれをとても良いと思いました。なぜなら、腹落ちしていないのに謝っても無意味ですし、大人でも突然自分の非を咎められたら防衛本能が働いて意固地にもなります。納得していないのにすぐに謝ってしまう子どもの方が、むしろ心配でしょう)

2人は一歩も引かずに睨み合い、大人だけが平謝りする事態となりました(こういう光景、育児をしていると本当によくありますよね……)。

結局、雨が降ってきてその日はお開きとなりました。
家に帰り、娘に「今どんな気持ち?」と聞くと

「まだ許せない!けど、スッキリした!」

と、とても晴れやかな顔をし、翌日からは意気揚々と水色の水着をプールバッグに詰め込んで出かけてゆくようになりました。

もちろん、○○ちゃんとも仲良く遊んでいるようです。

「年中さんは混沌とした時期です」

……年中組最初の保護者会で園長先生がおっしゃられた言葉です。

当初は意味がわからなかったのですが、5ヶ月が過ぎた今、少しだけ理解できたような気がします。

4歳は社会と相対する年齢なのです。

他者との関わりを通し、これまで触れたことのない考え方に出会い、己の輪郭を知る齢。

これまでになかったようなぶつかり合いや葛藤が増えるのは、お友だちを通じて、社会の中にある多様な価値観に触れているからなのです。

だからこそ、大人にとっては彼らの世界は一見「カオス」に見える。

「誰に何と言われても自分らしさを忘れるな」

ーーイギリスから米国に移り住み、性的少数者としての作家活動・社会活動に生涯身を賭したクエンティン・クリスプについて歌ったStingの名曲「Englishman in Newyork」の一節ですが、そのためには、石が濁流に揉まれてやがて固有の形を得るように、さまざまな価値観との摩擦の中、やがて二色には分けられない自己の固有性を自ら見つけ出す必要がある。

4歳とは、そのはじまりのタイミングなのだと思いました。

「自分の気持ちや考えを言葉にして伝える」
……そういえば、幼稚園から配られた夏休みのしおりにはこんな目標が書かれていました。

その機会に大いに恵まれている美登里幼稚園と、お友だちとの触れ合いに感謝しながら、水色の水着を晩夏の日差しの中に干す毎日です。

(年中組保護者 P.N母のはしくれ)